83.これじゃ見つからないや

「新田丸問答」　生駒實著並刊　日本郵船
　非売品　小冊子　昭和15年4月7日　52,500円

　昭和１５年３月に竣工した豪華客船・新田丸を紹介した案内冊子です。船の設計には新日本様式を標榜する一流の建築家・村野藤吾や中村順平が関与し、一等食堂は松田権六の蒔絵で飾られ、一等客室、一・二等食堂や理容室、美容室は冷房完備。水温調節のできるプールもあり、その天井は開閉式と、当時花形だった英国のクィーンメリー号と比肩するほどの超豪華客船でした。完成披露パーティには秩父宮はじめ皇族が列挙し、披露航海には川端康成や梅原龍三郎、大沸次郎などの著名人が招かれたそうです。

　だからって単なる船のパンフレット。どうしてこんな値段がつくのでしょうか。いえいえ実は・・・・・・。

「新田丸、新田丸つてどこが違ふのだ」「新造船だ」「新造船なら方方にあるではないか」「方方にあるのとは違ふ」「だからさ、どこが違ふのだ」「大きいよ」「日本一か」「頓数から云ふと鎌倉丸の方が少し大きい」……

　「新田丸問答」の題名通り、本冊は案内パンフレットらしくないこんな二人の会話ではじまり、冊子の前半分26頁に亘って船の豪華さを語っています。

　本書は生駒實名義になっていて、この人は実在人物。ただし、この問答部分は生駒氏の筆ではなく、当時日本郵船の嘱託だった内田百が担当。のちに『けぶりか浪か』（昭37）に収録。

　というわけで片々たる小冊子ながら、これは内田百著作中の珍品なのでした。