74.楽しき思ひ出

「楽しき思ひ出」 原口鶴子 春秋社書店 初版 函付　
　和田垣謙三序 大正4年5月8日　47,250円

　この「在庫の中から」の「73.短くも美しく燃え」で紹介した原口鶴子さん再登場です。ようやく古書の市場で発見しました。

　くりかえしになりますが、原口鶴子（新井つる）は日本女子大を卒業した翌年、明治40年に単身ニューヨークのコロンビア大学に留学。心理学を学び、同大学院で博士号を取得。日本女性として初めてアメリカの最高学位取得者となりました。

　卒業式の日ニューヨークで原口竹次郎（のち早大教授）と結婚。帰国した鶴子は研究を続け、講演や執筆活動も行っていましたが、患っていた結核が進行。大正4年、29才の若さで逝去。彼女の国際性や自立精神は、後に続く女性たちに大きな励ましとなったそうです。本書は亡くなる直前に刊行された自伝で、留学時代の様々な思い出を記しています。

　さて、ここからは余談ですが、文中に「最終試験の日取りを極めに」、「クーさんは袁総統の秘書官」という二つの短い章があり、そこには勉強家の中国人留学生「ウェリントン・クー」の話題がなされていました。実はこの人こそ、中華民国の外交官として各国公使、パリ講和会議、ワシントン会議、関税会議の中国全権代表、さらに第二次大戦後は台湾総督府資政～国際司法裁判所判事をつとめた、往時の中国外交の超大物、顧維鈞（こいきん）のこと。当時のコロンビア大でも、勉強家の学生として評判だったようです。