66.医学と文学

「寺島長門集」　正木不如丘編　至玄社　初版函付　
昭和3年6月10日　6,300円

　寺島は医師で帝大医学部卒業後、富士見高原病院に勤めていました。堀辰雄の「風立ちぬ」の舞台となった高原のサナトリウムです。彼は医業とともに創作、翻訳もこなしており、創作集『顔』や、ピランデルロ『生けるパスカル』訳の著作があります。

　科学者で作家というのは珍しがられるようですが、洋の東西を問わず医者と作家を兼業という例は多いですね。おそらく対象が人間だからでしょうか。

　ところがこの寺島医師、大正十五年に患者の森みさ子と病院から失踪し、夜汽車の中で二人ともに服毒自殺を遂げてしまいました。何があったのか、理由はわかりません。

　この遺稿集の編者は富士見病院の院長・正木不如丘。慶應医学部の先輩でもあり、医業と作家の二つの顔を持っていたところも共通するものがあったのでしょう。正木院長は竹久夢二との親交でも知られます。昭和9年、富士見病院で夢二を看取ったのもこの人です。