60.返してくれよう

荒城の月　木村毅　春陽堂　
　自選読物傑作集　初版　
　昭和17年6月18日　4,725円

　　「瀧連太郎」「森鷗外」「夏目漱石」「福沢先生」「光妙寺三郎」などの伝記小説を収録。収録作中の光妙寺三郎は、ちょっと知られていない人ですが面白い。彼はパリ大学に留学の後、新聞記者、そして検事という堅そうな履歴なのですが、在パリ時代は遊び人として知られていて、留学時代に一時、ジュディット・ゴオチエ（幻想文学の大家ゴオチエの娘で、西園寺公望歌集『蜻蛉集』仏訳者）の愛人だった、というネタを元にした作品です。

　木村の著作の中でも昨今あまり見かけない本書ですが、この扉の裏には貼紙がしてあって、毛筆で「一冊しかないので使用後は直ちに御返しを乞う」と、著者の住所印が押してありました。この願いが果たされたかどうかは、定かではありません。