160.近代建築ことはじめ

160.近代建築ことはじめ

「増補 西洋家作ひなかた」　村田文夫・山田貢一郎訳
　千鐘房蔵版　四巻四冊　題簽付　明治五年五月序　47,250円

これはわが国最初の西洋建築紹介書として知られています。ちなみに本書には玉山堂山城屋佐平刊行の、同じく和装四冊本もあって、そちらが先行するという向きもあります。いずれも奥付には刊年が記載されていないので、正否をいちがいに判断はできません。しかしながら根拠のひとつに、千鐘房版の題簽には「増補」の角書きがあるという点が指摘されているのには、素直に頷けません。実際、日本の二つの版には内容に増補や改訂箇所は見られないので、やはりこれは本書の凡例にも記されている通り、原著が「増補版」であったためでしょう。

例えば『英和対訳袖珍辞書』がちっとも小さい本ではないのに「Pocket Dictionary」を直に邦訳したためだったり、初版の『和蘭文典』の見返しに「第二版」と原書の記載そのままに訳してあること同様、当時はこうした翻訳の例が散見されます。つまりこの「増補」も、開花期の翻訳事情によるものと推測されるのです。個人的には、むしろ「増補」とあるこちらの方が先行するのでは？　と考えるのですが如何。