12.秋成の春

■□■在庫の中から・その⑫上田秋成の春の歌■□■

上田秋成和歌懐紙幅　　157,500円
「春興　草まくらけさたのしげに此春はかたりていもをなぐさめとする　無腸」
紙本絹装　紙面28×42　箱付

　無腸は蟹のこと。人が縦に歩くならば我一人横に歩かんという意味をこめた号だそうです。この人、怪談「雨月物語」の作者として著名ですが、本分は真淵門下の国学者。また性格は狷介にして他の文人、国学者を見ること蛇蝎のごとく、というクセの強い人だったようです。ことに本居宣長との激しい論争はよく知られるところ。それは下記の歌にいかにも象徴されましょう。この宣長のあまりに著名な歌に対して、秋成のいかにも人を食った強烈なカウンター・パンチ、真面目な宣長さんには申し訳ないけれど、面白い。

敷島の大和こころを人とはば朝日に匂ふ山桜花（本居宣長）

しき島の大和心のなんとかのうろんな事を又さくら花（上田秋成）

　博識と創作力にめぐまれながら、晩年は妻に先立たれ両目を病み貧しい生活をおくった秋成ですが、上記の懐紙は、いじわる爺さんらしからぬ（？）ほのぼのした感じがしませんか？　もちろん語る相手の「いも（妹）」は奥さん、玉（瑚尼）さんのことでしょう。